志賀郷北部地域の米つくりと農業生産

稲穂

志賀郷北部地域の農地と灌漑施設
志賀郷北農の米つくり―環境保全型農

志賀郷北部地域の農地と灌漑施設

  • 志賀郷北部地域は、綾部市の北部約20km程度のところに位置し、標高は80mから100m程度で、犀川(由良川支流)の源流域にあります。5つの集落があります。
  • 丹波の北部に位置し、古くから都に農作物を収める重要な地域として近郊農業が発達してきました。古くから丹波5特産といわれる「丹波大納言小豆」・「丹波黒(黒豆)」・「丹波栗」・「丹波松茸」・「丹波筍」が生産されてきました。しかし、現在は「米(京都米)」と、「丹波大納言小豆」・「丹波黒(黒豆)」・「丹波栗」が主に生産されています。松茸は残念ながらほとんど取れず、筍の管理生産も行われていません。
  • この地域の土壌は赤土の粘土質土壌で非常に粘りがあり、水田にした場合は石が少なく耕土が深くなります。保水性と保肥性がすぐれ稲作に適しており、おいしいお米がとれます。しかし、田を乾かすのが難かしく、野菜栽培には多くの工夫と労力が必要です。
  • 水田の灌漑には、谷水のため池と河川から引いた水を使用します。犀川の水源域のため、産業排水や生活排水をほとんど含まない自然水です。

志賀郷北農の米つくり―環境保全型農業

  • 志賀郷北農の農産物生産・販売の基本理念は次の3点です。
    農薬使用回数の削減と化学肥料使用量の削減により、環境にやさしく安全な食料を生産・販売します(環境保全型農業)。
    志賀郷北部地域の農地・環境特性をいかした、おいしい食料を生産・販売します。
    関係法令・ガイドラインの遵守と生産者・生産圃場・栽培履歴情報の公開により、安心できる食料を生産・販売します(トレーサビリティー(追跡可能性)のある農作物)。
  • 米つくりは京都府からエコファーマー認定を受け、農薬使用回数と化学肥料使用量を削減した環境保全型栽培です。現在、コシヒカリを、節減対象農薬の使用回数が京都府の慣行栽培レベルの66%減、化学肥料の窒素成分量が慣行栽培レベルの52%減で栽培しています。生産者・生産圃場・栽培履歴について第3者により確認をうけた特別栽培米として生産・販売しています。また、JA京都にの国特別栽培米生産部会協議会に参加し、他の生産団体と共同しながら環境保全型農業の推進に取り組んでいます。
    *京都府におけるお米(コシヒカリ)の慣行栽培レベルは、節減対象農薬の使用回数が18回、化学肥料由来の窒素成分量が8kg/10aです。特別栽培米とは、農薬の使用回数が都道府県毎に定められた慣行栽培レベルの5割以下・化学肥料の窒素成分量が5割以下で栽培され、その栽培責任者・生産圃場・栽培履歴が第3者によって確認された農産物に表示することのできるお米の農産物表示規格のこと。
名称 玄米
原料玄米 (未検査米)
産地:京都府綾部市志賀郷北部地域
品種:コシヒカリ
産年:右下記載
内容量 右下記載
調製年月日 右下記載
生産販売者 志賀郷北部農産株式会社
京都府綾部市坊口町竹本20
TEL. 0773-21-7067

 

農林水産省新ガイドラインによる表示
特別栽培米
節減対象農薬(使用回数): 当地比34%(66%減)
化学肥料(窒素成分量): 当地比48%(52%減)
栽培責任者 志賀郷北部農産株式会社
所在地 京都府綾部市坊口町竹本20
連絡先  TEL 0773-21-7067
メール sigasatohokunou@einaka.jp
確認責任者 京都丹の国農業協同組合 営農経済部
所在地 京都府綾部市宮代町前田20
連絡先 TEL 0773-42-1814
  • 稲作カレンダー
    志賀郷北農の毎年の米つくりの取組みを稲作カレンダーとして表しました。
    *米つくりは田植えから始まるのではなく、前年秋の「土づくり」から始まることにご注目ください。また、米つくりの終わりは稲刈り・脱穀(稲モミの収穫)ではなく、その後の稲モミから良質玄米を得るまでの収穫後処理であることにご注目ください。
    稲作カレンダー

  • 志賀郷北農の米つくりは、JA京都にの国の稲作技術を基本としながらこれを修正したものです。また、JA全農京都の稲作技術京都府農林技術センター(亀岡)の出す農業技術情報、京都府における持続性の高い農業生産方式の導入に関する指針(H28年)を参考にしています。その他参照技術資料として稲|農作業便利帳|みんなの農業広場があります。
  • 肥料: JA京都丹の国専用肥料(90日型米星252)を元肥として1回だけ(32kg/10a)使用します(基肥一発肥料)。これは、有機肥料成分を50%以上含むとともに、すぐに溶け出す速効性成分とゆっくりと溶け出す緩効性成分とをバランスよく混合した肥料です。含まれる化学肥料窒素成分量は12%(3.8kg/10a)で、当地の慣行栽培レベル(8kg/10a)の48%(52%減)です。追肥は行いません。生育後期の窒素成分量を制限し、稲モミ中のたんぱく質量を減らすことにより、収量は少し落ちるが甘味のあるおいしいお米の栽培をめざしています。
    *化学肥料自体が環境に悪いわけではありません。持続的な生産には肥料の使用が必要です。化学肥料は肥料成分のN,P,K量を人為的に作物の成長に合わせてコントロールできるという利点があります。しかし、地域(水域)外からもちこまれた肥料であるという弱点があり、イネの吸収量を超える過剰使用は、河川と海(下流域と河口沿岸)の富栄養化による環境汚染の原因となります。したがって化学肥料の削減と地域(同水系)の有機資材を用いた有機肥料の利用は、他地域(他水系)から持ち込む肥料成分を減らし河川の富栄養化を防ぐという点で、環境保全に役立ちます。しかし、有機肥料であっても他地域から持ち込んだ資材を利用する場合は化学肥料と変わらず、過剰使用すれば河川の富栄養化を引き起こし、環境汚染の原因となります。化学肥料と有機肥料の違いのもう一つの点は、土づくり効果です。コメの持続的生産には肥料のほかに土づくり(土壌の団粒化、保水性・保肥性の向上、適度の排水性、微量元素の補給)が重要です。有機肥料の使用は、N,P,Kの肥料成分とは別に微量元素の補給と繊維成分による土つくり効果により、持続的な米つくりに役立ちます。一方、化学肥料には土つくり効果を期待できません。したがって、化学肥料を主体として肥料投入する場合であっても、別途、土づくり資材(堆肥等の土壌改良資材)の投入と微量成分の補給が必要になります。結局、各水田の土壌特性を考慮しながら、有機肥料、化学肥料、土壌改良資材をどのように組み合わせて米つくりを行うかが、生産者の稲作技術の特徴となります。
    *食糧生産にもちいる肥料のあり方は肥料取締法に定められています。特に使用法によってはヒトに対する毒性を持つ可能性のある肥料については、同法で特別に指定され、厳密に使用基準にもとづいて施用することが義務付けられています。

  • 農薬: 育苗期に「いもち病」予防と害虫予防のための薬剤(ドクターオリゼフェルテラ、北興化学工業)を1回使用します。有効成分はクロラントラニリプロール(殺虫剤) 0.75%とプロベナゾール(殺菌剤)24%です。田植え後には除草剤(キマリテ、北興化学工業)を1回使用します。有効成分は、イプフェンカルバゾン(除草剤) 2.5%とテフリルトリオン(除草剤) 3.0%です。また、除草に失敗した時のみさらに除草剤(クリンチャーバス、北興化学工業)を1回使用します。有効成分はシハロホップブチル(除草剤) 3.0%とベンタゾン(除草剤) 20.0%です。いずれにせよ削減対象農薬の合計使用回数は4回または6回(2つの成分を含む農薬は1回の施用でも2回と数える)で、当地の慣行栽培レベル(16回)の34%(66%減)です。
    *これらの農薬はいずれも法令上の(毒劇物には該当しない)普通物で農薬取締法にもとづき審査を経て農水省により農薬登録された農薬です。したがって農薬会社の使用基準を厳守する限りはヒトに対する安全性は確保されます。また、環境中で速やかに完全にまたは基準値以下にまで分解され、長期間残留することはありません。しかし、本来的性質が殺菌性・除草性・殺虫性をもつため環境(小型生物)への影響はさけられません。したがって、農薬使用量の抑制は、水田と地域の環境(生物多様性)保護に重要な意味を持ちます。また、水田の生物多様性の保護は水田の土づくりに重要な働きをすると考えられています。*節減対象農薬とは、化学合成農薬から「有機農産物のJAS. 規格で使用可能な農薬」を除外したものです。*なお、登録農薬以外の資材を病害虫防除目的で食糧生産に使用することは法的に禁止されています。
節減対象農薬の使用状況
クロランラニリプロール
プロベナゾール
殺虫

殺菌
1回

1回
イプフェンカルバゾン
テフリルトリオン
除草

除草
1回

1回
シハロホップブチル
ベンタゾン
除草

除草
1回

1回
  • トレーサビリティ(追跡可能性):もう一つ重要なことは肥料と農薬の使用状況の記録と一般公開です。登録農薬は農薬会社の調査研究と農水省による審査を経たもので、使用基準を守る限りヒトに対する安全性と環境負荷の軽減が保証されています。
    しかし、その保証は審査時点のものであり絶対とは言えません。まれに科学者により評価が分かれていたり、登録後に新たな問題が発見されたりする場合があります。また、化学肥料と農薬使用量を削減しているといっても、それをどこまで信用してよいものかわかりません。このような場合に重要なことは生産者が化学肥料や農薬の使用情報を記録した栽培履歴を公開し、第3者がその内容を確認・保証し、その情報をもとに消費者が生産物を選択できるようにすることです。
    この必要にこたえようというのが農林水産省「特別栽培農産物にかかわる表示ガイドライ」にもとづく特別栽培農産物認証制度です。「特別栽培米」は、「ガイドライ」に従って化学肥料と農薬の使用量を当地の慣行栽培レベルの半分以下に抑え、しかもその栽培履歴が第3者により確認された、トレーサビリティーのあるお米に使用される品質表示です。したがって「特別栽培米」には栽培責任者と確認責任者の氏名・住所・連絡先および農薬使用状況が表示され、その栽培履歴はホームページ等で公開されています。
    *特別栽培農産物の生産管理法および表示法の詳細は農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン 」参照。

  • 収穫時期近くには、カメムシ(稲モミの乳汁を吸い取るので黒斑点米の原因になる)の防除が必要ですが、農薬は使わずに人力による畔の草刈りで防除しています。
    *たまに見られるお米の黒斑点は農薬節減栽培の結果です。かといって黒斑点米の混じらないお米が農薬を使って栽培されたかといえばそうではありません。お米の1つぶ1つぶを識別し黒斑点米だけを除く技術があるからです。

  • 生物多様性の保護:近年、有機肥料使用と農薬削減効果で、水田にタニシが多くみられ、豊岡で繁殖したコウノトリが志賀郷地域にも住み着くようになりました。また、水田の中干し(稲の過剰分けつによる不良茎の発生を抑えるために一時的に水田を乾かす処理)時には、水田の中に深溝を掘り、水(ねき水)をため、小型生物を保護しています。
  • 土づくり:土壌改良材として米の良食味に重要とされる「BMとれ太郎」(有機JAS資材)40kg/10aを春の最初の水稲作業の耕転「荒起こし」時に施用しています。

*BMとれ太郎15の成分 リン酸、苦土、けい酸、アルカリ分、ほう素、マンガン=6:15:30:45:0.5:1 この肥料は水に溶けないので流亡が少なく、肥効が穏やかで環境にやさしい。